ガールズバー定期


あぁ、休みの無い毎日…そんな日々からの脱出はできない…ならばどうするか…僕は戸惑った…。

そんなつまらない日々をいかに楽しく過ごすかどうかだろう?自分の意識次第で仕事がキツかろうと最大限に楽しむことは出来る。


と、僕の友人は笑った。今ではもう、友人の1人と思ってるし思われている。このブログではおなじみ(?)の一緒の現場で働いている同い年の職人さんのことである。


僕もようやく検査までの書類地獄の忙しさから解放され心にも余裕ができ、彼と一緒に飲みに行くことにした。

お互い早く帰ろうとは言ったものの結局駅に着いたのは20時30分だった。とはいえ、僕らからしたら20時過ぎに終われるのはどちらかと言うと早い方ではあるのだが…昨今の20時は今までとわけが違った。


緊急事態宣言…京阪神でももちろん出されておよその飲食店は20時で閉まるルールとなっているのだ。僕らはそれを知ってはいたが、そんなルールを守らない店もあると思い、辺りをうろついていた…。


いや、どっこも開いとらへんやないか…!!2人そう叫んで意外と皆さん言いつけ守ってるんだなと少し落胆気味にうなづいた。


結局、なか卯でテイクアウトをし、食べる所が無かったので夜の外の公園で食べる事にした。

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風も強く割と寒い日でごはんが温かいとは言え凍えるくらい寒く感じた。日頃どれだけぬくい環境で恵まれながら食べる事が出来ているかを知れた良い機会だった。


しかし、そんな劣悪な環境だったからこそ2人で共有して食べた竜田揚げを頬張った瞬間は今までの食事の中でも味わったことが無いほど泣けてくる美味しさだった。

美味しい…というよりこれで生きられる…という感想が出てきて「生」を堪能しているような愉悦な気分だった。


…しんどい日常が積み重なってるからこそ非日常が非日常でいられると僕は確信しこの寒さに日常を重ね、竜田揚げを非日常の悦びに照らし合わせたのだ。


満足した環境から満足は生まれない。当たり前を思った瞬間、また次の欲求が生まれる。今の足りてない環境は低度の満ちた欲求に満足を覚えられるようなコスパの良い身体となっていた。


そしてそんなこんなを考えながら本来二次会として使うはずだったガールズバーを一次会として行くことにしたのだった。

彼は行きつけの店らしいが僕は初めてだった。ガールズバー自体はこれで3回目だ。


中にはオーナーらしき40代の男性と女性が3人いて胸がよく見える制服を着ていた。ただエロを髣髴とさせるようなものではなく目のやり場に困るようなものでは無かった。


やはり彼の持ち前のトークスキルで顔馴染みってこともあるからか女性とバンバン話しかけては盛り上がってる。

僕の事を仕事仲間であり友人の1人だと告げ紹介してくれた。

相手も仕事なので僕に興味を持っていただき色々と他愛もないお話させてもらった。


…そういえば全然たわいもない話すら出来ていなかったな


僕は職人さんとは会話するようにはなったものの気持ちとしてはオンの状態だし話す内容も仕事の話がメインであった。


いわゆる(仕事の)外の世界の人と面と向かって話をするのは1ヶ月ぶりだったのだ。

1月は忙しい上にずっと1人だったから悩みも溜め込み発散しようとボールを投げても目の前に壁があり跳ね返ってまた自分に戻って来る…

しかも強く投げつけた分だけ跳ね返ってきた時の衝撃も大きいためしんどいことが一気にあるとすぐ心が摩耗されてゆく感覚があった。


…今そのボールを他者に向かって投げ発散出来ている事を実感し、精神的に徐々に解放されていったのだった。


最初に話した女性は見た感じおそらく少し年上のお姉さんで楽しく盛り上がればそれでいいをモットーにしたような明るい女性で彼と性格が似ているなと思った。

明るいだけでなく非常に聞き上手でもあり、しゃべりの配分も絶妙だった。ただ声が酒焼けかものすごいハスキーで寝起きは天龍みたいになるという自虐もかましていた。仕事に向かう前は声がちゃんと出るか確かめるため発声練習をするらしい。


自分の仕事であるガールズバーに真摯に向き合っており、それが伝わることの大切さを知れた良い人…ではあったが、次のお客さんがちょいとクセがある人だったので器用な彼女がその客にシフトし交替していった。


2人目は一歳年下で1人目の女性とうってかわってやる気がなさそうで自称おとなしい陰キャと言っていた。

そうやって言う人ほどなぁ…とは思っていたが話していくうちに自分と同類のものを感じるのだった。

色々話す言葉を考えてしまいテンポが遅れてしまう。話をするのにエネルギーを使ってしまうのでしんどくなる…など共感することばかりだった。


そんな陰キャなのにガールズバーで働く理由は日常からの脱出らしい。日頃はずっと家に引きこもっており人生は「楽しくない」と思っているらしい。かといってそれを改善させ日頃を楽しい状態にしたいかと言われればそうでもないらしい。

なぜなら日常が楽しいと満足してしまったら今までのちょっとしたことで楽しいと思えていた事が思えなくなってしまうのが嫌らしいからである。

彼女はちょっとした楽しみで満足感を得られるのがなにより幸せだからあえて日頃の満足度を減らしているらしいなかなかクセの強い女の子だった。


彼女が楽しいと思えること。それは酒を飲むことだそうだ。

元々話をすること自体は好きなので酒の力を借りて自分のリミッターを外し会話したり、1人の時でも日常を吹き飛ばすために飲んだりしまいにはガールズバーでそもそも飲むのにテンションを上げるために出勤前から飲むこともあるらしい。


なにせ酒を飲むということが彼女にとって起爆剤なのであろう。そして、それを最高の快楽と感じたいのでそれ以上の幸せはいらないと語った。

ガールズバーはめんどくさいけど天職でもある。ただ酒を飲むことよりも楽しいことが見つかれば即刻辞める、でも今ここにいるということはそういう事だ!とオーナーがいる前でよく言えるな…と思いながら面白い人だなと思った。


そんな感じで話が盛り上がってると隣のクセ強い客が渋めの歌を歌い始めたのだった。

というのもここはカラオケもできるバーなのであった。お互いの声がそのカラオケの音量で聞き取りづらくなり違う客にお呼ばれしていたのでまた違う女性に入れ替わった。


3人目は一世代くらい上のガール?とはもう言えないお姉さんだった。

しかしこの店は彼女で成り立ってるのではないかと思うくらいしっかりしており話上手で聞き上手で知的さも兼ね備わった話すだけで心が落ち着くような人であった。


今まで3件ガールズバーに行ったがどの店員も人格が優れており行った甲斐があると思わせられる人達ばかりだった。

ガールズバー自体ご元々そうなのか…と思ったが、おそらく誘ってくれた彼がきちんとした店を選んでくれているからだと思うし、そんな彼もまた気を遣えて優しい人格者だからだと僕は思った。


もし彼と出会えていなければ多分この仕事に絶望しとっくに辞めていたと思う。彼と出会えた、それだけでもこの仕事に対する「運命」を心底感じていたのだった。


そんな事を感じてる時はもう僕も酔ってきたのだろう…既に柚子チューハイ、二階堂のロック、ジントニック、レモンチューハイを飲み黒霧島のロックに手を出し始めた頃に歌いたくなってきたのだった。

彼にもちろんB'zやろ?何歌えるん?と聞かれ店員の提案でB'zヒットソングメドレーを歌う事になった。

ちょうどB'zが大衆的にヒットしていた俗に言う全盛期の曲ばかりである。

その女性はそれらをほとんど知っていたので気が合った。


彼 今メリークリスマス歌うん?

女性 彼女のためにイス買わなあかんねん

彼 イス??

僕 そういう歌詞なのよ

女性 君の欲しがったイスを買わなあかんねん、そして1人で電車の中で幸せにならなあかんねん

彼 いや、ならなあかんわけではないやろ笑


そして彼は最後の曲ええ曲やなとALONEの事を絶賛していた。死別した人を想った曲やねんと言うと、どおりで切ないわけやねと頷いてくれた。


そのほかにも彼がレゲエな歌を歌い、2人でGReeeeNの遥かを歌ったりした。なんやかんやで2時間滞在し最後にLINEを交換し形式上の友だちとなった。

支払いは順番制にしてるので彼が全額を払い、ちょうど気持ちいいくらいの酔いで帰ることにした。


乗り換えをしいつの間にか最終電車の時間になっていた。ふと目が覚めると知らない駅で電車の中がすっからかんになっていた。


そこではじめて悟ったのだ…ああ、寝過ごした…これ終点だよな…と。

終電車なのでもちろん折り返しの電車は朝まで来ない。


そして田舎の駅だからかタクシーは滞在しておらず乗り場にあった固定電話で呼ぶシステムであった。いつの間にかベロベロに酔って舌が全然回ってなかったが何とか電話することが出来た。

タクシーが来たのは呼んでから20分後くらいだった。

正直凍え死ぬかと思ったくらい寒くて来た時の嬉しさだけが記憶に残っている。

そして気が付いたらまた寝ていて起きると最寄駅に着いており金額を見てみると6930円となっていた。

あーもったいないことしたな…と思いながら時計を見るともう2時だった。明日も5時起き出勤か…家に帰って風呂も入らずそのままベッドへダイブした。


目覚めると景色が明るかった。そんな筈はない。いつも家を出る時ですら空は明るくない…

いやいや、アラームはセットしたはずだ。確かにスイッチはオンになっている。

しかし、その音に一切気付かず気がつけば6時45分になっていた。

慌てた僕は冷静に上司や先輩に寝坊の連絡を入れて酔った口+マスクはさすがに不快なので歯を磨き、パンツだけ履き替え昨日と全く同じ格好で家を出た。


全ての乗り換えで走ってクリティカルに行けば何とか間に合う…と信じて走り続けた。そしたら何とほんとにギリギリ間に合ったのである。なんたる強運。これもまたガールズバーのご加護なのだろうか…


…冗談はさておき、休みのない生活から1ヶ月が経ち一時期は忙しさとストレスが相まって参っていたもののようやくゆとりができ本来の自分に戻りつつあるように感じている。


もっと新しい挑戦や新しい出会いによってまだ見ぬ景色を見てみたい。そのためには今をまず楽しむという彼の生き様を胸に時に縛られようとも心は自由に生きていこうと思う。