自分の半生 ~大学編④-2

4回生、3ヶ月が終わり確かに楽しかったが今ひとつ物足りないものがありました。
誰かが僕のことを好きになってくれることです。愛情はいつも身近に転がっていたのかもしれませんが、今までの僕は強烈な自己嫌悪のせいでそれを受けとめる肯定感がありませんでした。そんな僕を変えてくれたのがこの時期でした。

第四章 花火

陸上部…長距離が次々と辞めていき駅伝が出来ないということでますます志気が下がっている最中、また1人学業を優先させたいため休部という形になり3回生は3人、2回生は3人、1回生は1人、練習するOBが3人とかなり少なくなっていました。

その中で大学から始めた後輩の女の子はその休部してた人と仲良くやっていたこともあったので彼が今後不在になることでかなり心が揺らいでるのではないかと僕は思いました。
彼女は陸上自体が好きというより楽しいことが好きといった人だったので辞めるかどうか心配というのが主な理由で彼女とはよく喋りかけるようにしました。

元々その女の子とは陸上部の中でも仲良くやっていました。きっかけはちょうどその1年前くらいから彼女がコナン好きで僕もコナンの主題歌が多いB'zが好きで、また祖母の家にはコナンがほぼ全巻揃っていることからコナンの話をすることもあり、またB'zにも彼女が興味を持ってくれたので最初はそう言った趣味の話で盛り上がりました。

次第に彼女がレポートのスケッチを見せてくれたり、食堂で食べたり、ホームページの作業を教えたり、最初は数人で集まっていましたが2人きりになったこともありました。
一度彼女もB'zに興味を持ってそうだったので6月にあるコンサートを一緒に行こうと約束しました。しかし、彼女が実験が被ってるということで少し行きたい気持ちもあったものの、もちろん授業が一番大事なのでそこはきちんと彼女にも伝えて次あれば行こうねと連絡しました。

結局僕は高校同期のB'zをあまり知らない人と行きましたが彼はB'zの凄さを目の当たりにしてまじでありがとうと言ってくれたのでそれはそれでアリなライブとはなりました。

当時は同期の女の子を彼女にしてたことや後輩ということもあり好きという感情はありませんでしたが、彼女のまっすぐさやみんなに優しくしたり文句をぶつけない、誰かのために行動できる人柄の良さに一緒に居て心地よいものを感じました。

7月…その後輩と2人でポケモンセンターに行きました。後輩も僕もポケモン好きなので3時間以上いた気がしますがとても楽しく会話が弾みました。そして夜ごはんで彼女の恋愛話を聞き、他に好きな人がいるけどどうしようか迷ってるとのことでした。僕は無難な答えを選んだ反面、彼女にも好きな男の子がいるんだな。そして俺ではないんだなと少し落ち込んでいる自分もいました。

この頃の僕はもう恋愛はしたくないと思っており、たとえ好きになったとしてもその関係を維持できるとは限らなくて、恋愛する=別れるが結び付くような思考に冒されていました。自分には好きな人がいたとしても付き合うことはない、もし相手に僕の事が好きで付き合いたいという人がいれば少し考えるかもねーとその彼女には言っていました。

そして一番驚いたのが彼女には特定の人を好きになる感情があるのかということでした。
僕は彼女がアイドル的な存在でみんなから好かれ色んな男性と喋っていくような無意識小悪魔な子でした。
それゆえに勘違いして好きになる人も少なくなく僕も危うくその1人になりかけた時もありましたが、いや、これはみんなに同じような対応をしてるんだろうな…と思っていました。
要するに彼女は慈愛に溢れておりみんなのことが好きみたいな感じで恋愛対象としての好きを持ち合わせていないのではと勝手に思ったからです。

また聞いていると、彼女は必要とされているなと思える人を好きになっていくのでその男の子に果たして好意があるのかも不明で恐らくその根源が無くなりかけていたから彼女も相談しに来たんだろうなと思いました。
男の子に大阪の花火大会を誘われており非常に行くかどうかを迷っていました。

好きだと思ってるのに迷ってるということは行きたくないのかな…。
僕は実はこの間にも彼女のことを好きになっていたのかもしれません。それはものすごいシンプルな理由であの日ほど楽しい日は無かったからです。もっと一緒に遊びたいな…そんな本能的な自分を彼女によって目覚めていったのです。

大阪の花火大会の前に試合ともろ被ってしまいますが滋賀の花火大会もありました。
帰ってからもずっと彼女が花火大会に行くか永遠に悩んでいました。それなら一旦僕と花火大会に行ってから考えればいいのじゃないか…おそらく僕の方が彼女を幸せにしてあげられる…。

僕は直接、その滋賀の花火大会に誘うことにしたのです。すると彼女はこぼれんばかりの笑顔で本当にいいんですか!!と快く受け入れてくれました。この時は単純にOKをもらったことが嬉しかったです。

この時くらいから大学や部活後でも2人きりになることもたまにあり、その度にものすごく楽しい思いをしました。この人と一緒なら僕は邪気が消えて素直になれる…。彼女ならいいのになとふと考えたりもしていました。

そして試合当日、お互い疲れていましたが何とか花火大会に見に行くことができました。
僕も彼女も花火は初めてで、ましてや女子といけるなんて感動でした。
唯一、僕が部活着で彼女は審判するため僕のポロシャツを着ていたのでもう少し花火に合った服装で行きたいなとは特に彼女の方は思ってるだろうなと感じましたが、そんなこと忘れてしまうほど花火は美しく、物理的に響く心にドンと突き刺す花火の音は何かを伝えているように聞こえました。

この時間がずーっと続いたらいいのにね。そう僕に見せた彼女は今にも告白のそれを言ってしまいそうな屈託のない感動的な笑顔でした。
花火大会は想像以上に混んでおり一旦ごはん食べようということになり、その後SNOWでツーショットを撮ったりしました。
1時間半ほどごはんを食べましたのでさすがに空いているだろうと思ったのは甘く、駅まで長蛇の列でした。これは彼女の終電間に合うのか…!?間に合えばいいけど間に合わなかったらどうしよう…。と真剣に考えていました。

ただ電車を待ってる時間ですら愛おしいもので可愛すぎてそんな理性もとろけそうになっていました。結局、彼女の母親が車を最寄り近くまで出すことで何とか家に帰すことは出来たので一安心しました。LINEのアルバムに写真が送られ心揺さぶられるような淡く儚い時間を思い出していました。
僕は激しい理性と本能が争っていました。今すぐにでも深い関係になりたい自分、そしてそれを全力で止める自分…しかし、理性と本能のどちらも彼女のことが好きだということには変わりありませんでした。

好きだからこそ…付き合ってはいけない。

いつまでもキレイな関係で居続けたい、付き合ってしまうと嫌なとこまで見られてしまうことになる。相手にとっても僕の良いと思ってる表面部分だけ享受すればいい…。そして一番は彼女の気持ちだ。彼女にとって最善の幸せな道を導いてあげるのが僕の役目だ。なぜなら僕は君が好きだからだ。

そんな気持ちとは裏腹にLINEで写真ありがとね、ツーショット見てるとまるでカップル同士だよね、君が彼女だったらよかったのに
と気持ち悪いくらいに思わせ振りなLINEを送ってしまったのです。本来心の中の感想に留めておけばいいものを、考えに考え過ぎた挙げ句一番やってはいけない文面となってしまいました。
流石にこれは打った後すぐにやってしまった!!と既読がつき、え?彼女になってもいいの?冗談とかじゃないよね?と返ってきてました。

え?いいの?

いやいやいや、でもダメだ…。僕はその覚悟が出来ていなかった。また同じことを繰り返す…なのに中途半端な発言をしてしまって正直な彼女はそれを素直に受け止めた。
自分が撒いた種なのにその種を燃やすかのように、いや気持ちは本気だよ。でも、僕には付き合っても幸せにできる自信がない、もしよければ今までと同じように先輩と後輩の関係でいよう。その方がお互い傷つかないで済むから
と返しましたがその発言もまた中途半端なもので何も失いたくないズルい自分が浮き彫りになっていて再び自己嫌悪に陥り、今度はLINEも返って来なくてあー終わったな…。自分は何て愚かな人間なんだとひたすら自分を責め、翌日のバイトではずっと何て返せば正解だったのだろう…とそればかり思っていました。

まあ、それもまた運命だ。そもそも彼女は好きな男がいた。彼女が幸せになってくれればそれでいい、LINEは返って来ませんでしたがそういえば彼女女子会やってたよね?どうだったんだろう?と思い自分の恥ずかしいLINEの上塗りとしてもう1つLINEを加えました。

バイトも終わり深夜の時間になった頃…彼女からLINEが返ってきていました。少し時間いいですか?電話で。
電話…?うーん、あ、そういえば大阪の花火大会が明日だったな、好きな人と行くんだっけな、俺はそれの予行演習みたいなもんだったもんな、その相談なのかな?

僕はそんなこと考えていながら電話を待っていました。電話に応じると確かに繋がったはずなのにずっと無言でした。
しかし、その奥から伝わる息づかいに何となくその後何が待っているのか分かりました。この独特な緊張感に僕までも息を呑みこむようにビリっと背筋が伸びていきました…。それはまるで花火がピュ~っと上がるような…

彼女はそれを息を抑えながら丁寧にゆっくり伝えると僕はその彼女の覚悟に激しく胸を打たれてしまいました。
彼女のストレートな気持ちと今までの僕の曖昧な気持ちを比較した時の恥ずかしさ…そして今までにないような嬉しくなっていく気持ち…色んな気持ちが混ざりました。
僕はこの電話で彼女の本気さが分かり、僕も彼女に本気で応えようという覚悟ができました。
花火がドンと響くような…責任のようなビリビリとしたものが心にズンと刺さり、戻れない道を2人で進んでいく決意をここでして、絶対に不幸にはさせない。僕はこれを失うともう二度とない…そんな大きな覚悟を背負って付き合うことになったのです。

第五章 全てはこのために

ちょうどこの付き合う時は夏休みの始めでした。なのでその前から夏休みをどう過ごすか予定を立てていました。

今までずっと僕は夏休みというものを部活に捧げてきました。しかし、これがおそらく最後の大きな夏休みとなるので部活以外のことをやってみようと思いました。
まずは卒論はやらなきゃいけないですが(次章に説明)四六時中やるわけでもないので大きく時間が余ります。
僕は後悔が無いように生きるということを日々思っていて人間はいつ何が起こるか分かりません。明日死ぬかもしれません。

なので、僕は会いたい人に会おうと思い、色んな人と飲みに行くことにしました。
今までの文章に出てきたであろう高校同期、高校陸上部の同期や後輩や先輩、大学陸上部の後輩や同期、B'z同好会などと飲みに行き、そして祖母と僕の家族でいつぶりかの旅行に行きました。

僕はそこで初めて家族に彼女がいることをカミングアウトしました。
僕の母親は口うるさいので今までかつて付き合ってた人も居ましたがいないふりをしていました。

なぜそれなのに話したのかは2つあり1つはずっと彼女出来ないの?と口うるさく言っておりそれによる人格否定があり面倒くさかったこと、そしてもう1つは今までの彼女だと僕は長続きしないと思ってたからです。
もっと正確に言うと結婚するということは生きる上で無いなと思ってたので、安易に親を期待させる訳にいかなかったので黙っていました。

元々小学生からやはりアレルギーのこと、そして性格上で結婚は無理だと諦めていました。
それは大学でもずっと考えており、付き合ってる今の時点で大きく気を遣い過ぎてる時点で後々絶対に上手くいかない…そう思ってたのです。

しかし、今の彼女にはそれがありませんでした。もちろん彼女側が気を遣ってくれている可能性はありますが、彼女も僕のことを好きでいてくれました。こんな慈愛に溢れた子が僕のことを好きと言ってくれていることがどれほど幸せなのか…。
僕よりも幸せになって欲しい、それを僕が幸せにするんだと思ったのは初めてでした。

なので初めて、僕は親に報告をしたのです。母親は激しく驚きすぎて老眼鏡をかけたまま風呂に入り風呂場であれ?まっしろ?あ、メガネ!!と周りが色んな意味で見えなくなっていました。よっぽど予想外の出来事だったんでしょうね。


B'zのライブビューイング、これが千秋楽にやることが7月あたりに決定し、僕は彼女をライブに誘えなかったのでライブビューイングに彼女誘いました。また、某ポッキーのCMソングを彼女のお母さんが気に入っており、B'zにも興味があるということから、お母さんを含めた3枚のチケットを購入し無事当選したのです。ここまでは良かったです。

当時はまだ付き合っていませんでしたので「後輩の母親」と会うだけでしたのでさほど緊張してませんでしたが、彼女と付き合うことになったため、いきなり「彼女の母親」となり、しかも付き合って1ヶ月という早過ぎるタイミングでした。それも彼女の家系は少し特殊で父親はプロの狂言師であり個人事務所を設立し、大学で狂言について教授をしていました。
その事実を前から知ってはいましたが、いざ彼女にしてからその重みは責任と共にずっしりとやってきて、両親に認められるような男にならればと思っていました。

しかしこれも運命が仕向けたものでありましょうか。早速そのお母さんと会うこととなり、粗相の無いようにしなければとこれからB'zのライブビューイングを楽しむはずなのに緊張していました。

駅で待ち合わせしていてビクビクしていましたがお母さんを見て少し挨拶した瞬間にお母さんも彼女と似た穏やかで気さくな人だなと分かるとそんな緊張した感情は消えてました。

ライブの前に少しカフェで3人になっていました。お母さんはまず彼女が僕のことを良く思っているということを伝えて彼女の生い立ちや性格などを話してくれました。
面白いエピソードもあれば寛容で包容力のある性格がこうして形成されていったのかと納得したり…どれも一貫してあったのは彼女に愛情を持って育てていたんだなということでした。
この母親あって彼女がいるんだなということがよく分かりました。

またお母さんはしっかりした人でたとえばアレルギーなどにも理解があり、それならあなたに合わせればいいじゃない、1人嫌な思いするよりみんなで楽しい方が幸せじゃん。そんな人格者に僕という存在を高く肯定してくれていたのでそれは誇らしくまた嬉しくも思いました。
なんだかんだ2時間30分くらい話していましたが3人とも少し恥ずかしさもありながらも心が満足したようなそんな感じでした。

B'zのライブビューイングをそんな温かい気持ちで観ていました。2人がライブに満足している姿に僕も満足しました。

ライブが終わった後お母さんと2人きりになりました。お母さんがまず口を開きこれからも娘のことをよろしくお願いします。そしてあなたはきっと色々苦労してそれを乗り越えてきたからこういう立派な人格が出来上がったんだと思うよ、と僕に言ってくれました。
思わず僕も、今まで人を疑うような性格だったけど彼女と出会えてから、彼女と一緒にいると疑うということが馬鹿らしく思えるくらい言葉に偽りもなくて…そう思えたのは間違いなく彼女がいたからです。とその言葉も偽りはありませんでした。

そうでしょ?あの子はそうなのよ、方向音痴だったり色々心配なことはあるけど困ってる人がいたらほっとけなかったりみんなが幸せになることが一番の幸せだと思ってる子で、そんな子が選んだ人だから私はほんとに幸せなんだよって、僕もお母さんも遠目にいる彼女を見ながら涙目になっていました。

僕はようやく生きる意味みたいなものを見つけられた気がします。僕はもう物心ついたときからずっっっっと劣等感に苛まれ、自分には価値が無いものとして生きてきました。自分で自分を刺しながらその流れる心の血を見てまだ生きてるんだなと確認するような暮らしでした。生きるために充足感を食らいながら劣等感から流れる血を塞ぐような暮らし…。限界がもう常にピッタリ張り付いていました。

何より彼女は僕のことをしっかりと見た上で先輩は素晴らしい人だよ、だから自分のことをこれ以上否定しないで!と僕の存在を受け入れてくれました。
そして、先輩は自分の人生を悲観しているけどこの経験があったから今のわたしの好きな人格になってこうして今の関係になってるんだよ。もしこの経験がなければ私は好きになってなかったかもしれない…だから必要だったんだよ。だから昔の自分も否定しないであげて…。

僕は確かにずっとしんどい思いをしてきたと自分では思っていて何でこんなにつらいんだと悲観事あるごとに否定してきました。
でも全てはこの今に繋がってるのだとしたら…この数々の試練を耐え抜いたのがやっと報われたと初めて自分のこの闇の部分を肯定できることが出来たのです。

僕は彼女の前ではそんな裏の病んだ自分が浄化される感覚がありました。それはどんな快楽や享楽よりも心地よいものでした。

そうだ、僕に足りなかったのは愛情を理屈抜きで享受すること、つまり僕は愛されるのには理由がいると思っていました。何かをすることで愛を戴く、何かをしなければ愛情は貰えないのだと…。

しかし、彼女は「僕そのもの」を好きでいてくれている。愛とは醜い計算の繰り返しだと思ってた僕の中の常識が根底から覆されました。

こんなに世界は単純だったのか…。この愛情が周りで溢れているからみんなは生きようと思えているのか…!?

僕は今までモノクロの色褪せた世界に閉じこめられていたのだと目の前にある彩りと輝きを放った
景色を見て初めて気がついたのです。その世界の扉を開けてくれたのが彼女でした。

そして僕は彼女とずっと一緒にいたい、彼女がつらいときは自分を捨ててまで支えたいと思える人が見つかったのです。
そう、生きる意味は人と出会うため…。かつてそう言っていたがこの本当の意味は「人と出会うために生きる」ではなく、「運命的に出会えた愛する人のために生きる」ということでした。それに気付けた瞬間、ゴールがはっきり見えてそれと同時にこれからがスタートなのだなと身が引き締まりました。

愛情は時にひ弱いもの、自分の心一つでパッと消えてしまうものです。この初心を忘れず僕は生き続ける…そう心に決めたのです。

次回、大学編④-3 卒論編へと続く