「お久しぶりです。今晩ひまやったりせん?」
そうLINEで誘ってきたのは8年も話した事もない友達でもない高校同期の男だった。
しかもそいつは高3の頃ガチ喧嘩して絶縁してた奴でそこからろくに会話すらした覚えがない。(詳しくは自分の半生 高校編③にて)
そんな奴からの突然のLINE、あまりに怪しすぎるのである。
怪しいというのはマルチ商法のような勧誘のターゲットになるには僕という存在が丁度良いのである。
まず、そいつ自身の現在の素性を知らないという事、高3当時は平気で嘘をつくような人間で友達も少なかった過去の事実。
また、誘うタイミングがあまりに突然でそれまでの会話も一切なかった。しかも、仲良くはないがLINEの連絡先は持ってて高校同期という多少つながりのある関係性。完全にマルチ役満なのである。
そんな見え透いた罠に僕はわざわざ乗ったのか。
1つはそいつと喧嘩した事に対して一度は謝りたかったからだ。
あと、そいつが今どんな感じで生きてるのかを話したいというのもあったし、仮にマルチだったとしてもシンプルに興味があったからだ。
まあ、マルチでもネタにすればいいだけの話だ。元々暇な盆休みだ、家で過ごすよりかは間違いなく有意義になるだろう。
そう決心したらもう身体は動いていた。
あ、そういえば聞いてなかった。サシなのか他に誘ってるのかどうか…
さりげなくLINEで聞いてみると、〇〇は来るらしいよと僕の大変知ってる女性の名前が映っていた。
…盛大に告ってそれとなくフラれた女性やん!???(詳しくは自分の半生 高校編②にて)
うん、待てよ?めっちゃ自分の歴史に踏み込んだ人間しかいなくね?あーこれどっちに転んでも良いね笑 電車に揺られながら気持ちの悪い顔で笑っていたかもしれない。
先に僕が着いて彼を探す…あれ、
あいつってどんな顔だっけ?身長高かったっけ?あれ?覚えてないわ。男やったら全員そいつな気がして色んな人を舐め回すように歩き回った。
そして逆に僕を探し当てられたかのように彼が声を掛けて、気付けば、あーコイツやわとパズルのピースが合致したかのようにしっくりきたやつが来た。
大きなキャリーを引きずっており、本来中越あたりの大学に戻るために帰ろうとした所、台風の影響で新幹線が無く引き返す羽目になったらしく、時間ができたため誘ったとの事だった。
辻褄は合うな…と一人で納得したがまだ猜疑心はあったままだった。とりあえず近くの空いてる店で先に2人で飲んでいた。
彼はそんなに積極的な人間ではないのに急に同窓会を開こう!とグループLINEで会話したのもそういえば彼だった。
何が彼をそう動かせたのか?探り探りで色んな会話をしていった。
どうやらバスケ部であった彼は、バスケ部ではちょくちょく会ってたりしているらしくそこで同窓会の話になったらしい。
僕はそう言えば同じクラスに陸上部はいなかったので陸上部で集まってもクラス会をする発想には至らなかった。
また、相手は医学部の大学生なので大学の話、今アイドルをプロデュースしてライブやってるという話や浪人の頃の3浪目の地獄、なんでやる気になったのかといった話はどれも興味深くそそられた。
僕は仕事の話や恋愛の話、そしてこれから合流するフラれた女性の話もまた自分で言ってもあれだがなかなか面白い話なので相手も食い付いていた。
ただマルチの可能性もあったので会社名や具体的な話は伏せて過去の話を中心に展開させていった。
そしてあん時は余裕無かったよなーって話から、高3の喧嘩の件に切り込んでいった。
彼はそういやあったなーと言われるまでは忘れてたらしい。まあ、多分俺がガキやったと彼から謝ってくれた。
僕もあん時はガキやったわーと笑い最後は握手をした。8年のわだかまりが解消した瞬間だった。
そしてもう一つ気になっていた、そういやマルチなん?問題にも切り込んだ。
そうしたら、彼は笑って確かに考えた事なかったわ、逆の立場やったらほんまにマルチそのものやん、よう来てくれたな〜と残念ながらシロだった。
まあ、クロやったら吊るし上げたんやけどなーって笑っていたところでガラガラガラとフラれた女性も合理した。
結局計4人来てかなり少数のクラス同窓会になった。
どうでもいいが実はクラス同窓会を一回もした事がない。理由は至極簡単で絆とかの類が皆無だからだ。個がみんな個として動いてるためその発想が誰にも無かった。
4人で昔の話、今の話、恋愛の話で大いに盛り上がった。そしてその女性と話すには欠かせない共通の友人である女性(大学の陸上部)の話もした。(詳しくは人生の半生 大学編②-2にて)
ある意味、その陸上部の女性のお陰で良くも悪くもこれまでに僕の話題が上がり、悪うない奴と認識してくれて今日の飲み会が成立したのかもしれない。ありがとうございます。
…そして2次会も開き、またやろうね!と再会を誓い4時間ほど続いた飲み会もあっという間に終わってしまった。
多分こいつのせい(後述)
思ったのは昔は女性を前にするとガチガチになって話すのに緊張していたが、今は嘘のように気兼ねなく話せてる事だ。
手なんか触れただけでも昔はおおおおおお!!!??と挙動がバグっていたのに今は触れても表情には出ないようにはなってる。(でも触れ合うっていいんよね。)
それがかつて好きだった相手でもだ。紛れもない8年前からの成長である。
色んなことがただ一点「時の流れ」によって浄化されて壁みたいな物が取っ払われた状態で話が出来たのは何より楽しかった。
僕は気持ちの悪い顔で満足げに電車に揺られていると気が付けば10駅くらい乗り過ごしていた。
そして、0時を回っており引き返す便は無かった。詰んだぁぁぁぁーーー
そんなハズは…と踏み出した足取りもかなりクラクラしていた。お酒飲み過ぎてたんだ…今更ながら気が付いた。
気を紛らわすために思ったより飲んでたのかもしれない。本当は緊張してたのかもね。まだ青い部分があったんやな。
あんまり思い出したくない高校生活だったけどそんな苦くて青い未熟な果実が最高の酒のつまみとして共有したあの瞬間、俺はこの高校で良かったと思えたよ。泣けてくるね。
あーとりあえず次の日も休みで良かったーー