思い出したこと

僕はまた1つ記憶を思い出した。


当時通っていた高校はウォークマンのような機器ですら持って行くだけで停学になるような学校だった。

高い学費だったため僕はCD1つすらまともに買えるお小遣いを持っていなかった。


高2の頃、それぞれ音楽の趣向が違うことから自分専用のウォークマンを買ってくれた。

友達に借りたCDやレンタル店で入手したりして取り込んで耳が擦り切れるくらい聴いた。


でも聴くことは出来ても歌うことは出来なかった。

聴く時間と言えば夜中みんなが寝ている間に勉強する時くらいでカラオケなど行くお金も余裕も無かった。


また、高2の頃は一番むしゃくしゃしていて何もかもが嫌になっていて部活で走って頭を気絶させるくらい追い込んで忘れさせるような日々だった。居場所などなくて、どこにも帰りたくなかった。


僕はダメだと知りつつもウォークマンとイヤホンを学校に持って行くことにした。


もちろん学校で使うとバレるし、登下校の電車も先生は乗っているので使うことはなかった。

でもウォークマンを所持している僕はまるで犯罪を隠しているかのようなドキドキ感とハラハラ感が背中にぴっしりと張り付きそのスリルもたまらなかった。


帰り道、もう空はすっかり暗くなっていた。
真っ黒に波打ち寄せる海が見える景色の良い公園まで歩き、隠していたウォークマンを取り出した。


周りには誰もいない。空は何も邪魔しない。星がポツポツと見える。開けた平原の中に僕は1人イヤホンから流れる音楽を聴き誰もいないはずなのに少し恥ずかしながらそっと口ずさんでいた。


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その時に聞こえてきた音楽は今まで聴いたどの音楽よりも美しく、またこれを超える美しさと儚さを僕はまだ知らない。