第五章:友達から恋人へ
大学生となった僕は京都に移住する事になった。
中高やってきた陸上部を続けるか迷っていたが部活紹介のブースでマネージャーさんがいて好きなタイプだなというのが5割くらいあってやましい気持ちもありながら入ろうと決意した。
同じ学部の女子は陽気な人が多いが、どっちかと言えば分け隔てなく会話してくれる人が多かった。今まで全然女子と会話してなかった僕にとっては新鮮で、って事は全員にもれなく付き合えるチャンスがあるってコト!?と脳みそはバカな方向に舵を切っていた。
とはいえ、授業で2人1組になって下さいと言われたら相変わらず僕が余るし、建築もそこまで興味が無いし才能も無いので話しかけるトピックも無く陸上部に逃げるようにして楽しむ事が多かった。
その中でも直近のブログではあるが、花火大会に誘った同期の女の子(『性欲で生きるのをやめた日(前編)』参照)の存在もあり、まあ結論とすれば断られその人との幕は閉じたのだが…
このまま同じ事を繰り返すと良くないと思い、彼女を作るためにはまずはしっかりコミュニケーションを取ってゆっくり始めようと決意した。
1年の秋から席の隣のとある女子と話す機会が多くなった。もちろん同学年ではあるが、浪人をしていたので年齢は1つ上だった。声が高くアニメの声優を彷彿とし可愛らしいが、中身はしっかりしており2〜3歳くらいはお姉さんのように感じた。無論年上好きなのでそちらの方が良い。
可愛い声で結構ズケズケ言うタイプで話も弾んで楽しかった。次第に一緒に学食で食べたりもした。
また、建築学部では恒例の製図室で大勢が徹夜して課題に取り組む行事(?)がある。
製図室はおおよそ1部屋40人で夏まではその人とは部屋が別だったが、秋からデザインと建築で専攻が変わったため同じ部屋になり、より喋りやすくなった。
しかも徹夜だとお互い脳みそも回らないし、色んな人もいるのでみんなで思考が徐々に溶けて交わり合うようになんだか一緒にいて心地よい気分にさせてくれる。
普段見せてない自分を晒け出す=この人たちを信用しているからの等式が僕とその人の距離を近付けてくれたような気がするのだ。
そして冬になりデートに行くことになった。映画を観たり、買い物したり…。何気ない事だが、この人となら話をしていて楽しい。そしてユニバだ。
僕はユニバで告白しようと決めた。
でも僕は思った…。本当に好きなのか?確かに一緒に2人きりでいる。楽しいと思ってる。でもそれが好きの根拠なのか?
いや、それは付き合ってから好きになればいい。付き合わないと分からない事もあるし、その隠された所に好きが隠れているかもしれない。別に結婚前提とかでは無いのだからそれよりも付き合って色々経験した方がいい。今までが好き先行型だったから違和感があったんだ。別に恋には色んな形があるだろう…。
僕は恋人になる選択肢を取った。
ただ告白するタイミングを見失った。そういえば今までは「他人もいない2人きり」の場所を作るために試行錯誤していた。知らない人に恥ずかしいセリフを聞かれたくないからだ。
だが、ユニバでは本当に2人きりになれる場所など存在しない。見渡す限り人、人、人だ。
思えば最小限で済むチャンスは何回かあったが結局逃してしまいとうとう改札まで来てしまった。
当然電車を待つ人も大勢おり、もうこれは乗り換えの時に言うしかないか…と諦めた。
そして西九条駅で乗換えで一旦外に出て言おう…!そう思ったら何と直接大阪駅に行くではありませんか。
相手は大阪の南側なので僕がそのまま電車に乗って相手だけが西九条駅で降りる…つまり、乗り換えのタイミングが消えたのだ。電車の中で頭ぐるぐる回した結果、僕は満員電車の中で告白した。(全然高校の失敗を活かせてねぇじゃん…)
当然相手は何でこんな場所で言うのよ、と少し顔を赤らめた。少し怒ってたからもあったがその後少し照れくさそうに「よろしくお願いします。じゃあ」と言って開いたドアに向かって消えていった。
…成功したのか!確かによろしくお願いします言うたな!よしゃ!
一応LINEでも場所を選ばすに告白してごめんという事とこれからもよろしくお願いしますと打っておいた。いつの間にか春になっていた。
第六章: 裏
2回生の春になってからはお花見に行ったり相手の地元の近くである通天閣に行ったりデートを重ねた。
楽しそうにしてくれてそれが何よりの安寧だった。
この時期にちょうど僕は京大B'z同好会に入る事になる。X(旧Twitter)でその存在を知り、一気に幹部の人達と近付く事になった。
実際にB'zに関する事に全力を注ぐ同好会である事に間違いは無いのだが、裏で一部の人達は「恋愛工学」を基に彼女を作るグループが発足されていた。
最初は彼女がいるからと断っていたが、このグループのほとんどは彼女が既にいるんだと言われ、多分今持ってる君の価値観は一気に変わると思うと強く勧められ、まずは教材を読むことにした。
目から鱗だった。僕が掲げていた一途、純愛が本当に正しいのかという事だった。
モテる人がモテるというのは前の章でも話したが、結局人間の真髄は魅力のある人に吸われるのだ。
彼女は建築のセンスがありそこそこ優秀な人だった。なので課題の相談も僕ではなくもっと優秀な男に聞いたりする。また、喋り上手なカッコいい男とも楽しく会話している所を見れば、本当に俺でいいのかと自信を無くした。
さて、モテるにはどうすればいいか。それをこの恋愛工学では書かれていた。ある意味で当時の僕に必要なものだったのかもしれない。
まずは、「オス」としての魅力を上げる事だ。よくあるコミニュケーションで取り上げる〇〇効果みたいな小手先のテクニックではない。それは当然知る必要はあるし、適所で使った方がいい。
だがそうでは無い、モテ=ヒットレシオ×試行回数だ。
ヒットレシオとはモテ指数の事で顔、ファッション、トーク力、才能、経済力、ステータスなどの事でそこに恋愛テクニックも合わせて含まれる。試行回数とはナンパ、合コン、クラブなどの出会いの人数である。
まあ、これが本筋では無いので簡潔にまとめるが、このグループはそのヒットレシオと試行回数を大きく上げるために自分がした事をレポートの形として投稿したり合コンなどをセッティングし一緒に参加したり、ゲットした女性などの情報などを共有し、高みを共に目指すのを目的とし立ち上げられている。
グループにするメリットは、やはりナンパは特にそうだが、失敗も多くメンタルも削がれる事もある。ただグループになる事で自分を逃げられないようにし、ふたたびモチベを上げるためだったり、情報を共有する事で「試行回数」や傾向と対策を掴み、成功率を上げる。
そして何より大事な事だが、「ステータス」を上げるためだ。
人間というのはその人自身も見られるが、その人の交友してる人たちを見られて判断される事が多い。
たとえばその人自体に魅力を感じでいなかったとしても、凄い魅力のある人を友達にしていれば本当はこの人もすごい人なのかな?と勝手な認識をしてくれる。
いわばそのグループにいる人達の存在が自分の魅力を上げてくれるのだ。
実際にほとんどが先輩だったが、ただならぬモテの魅力を纏っていた。これはついて行って僕の魅力を上げるしかない…!こうして僕は戻れない道の1歩を踏み出すのだった…。
2回生夏、もちろん彼女にはそのグループに入った事は伝えずデートをそこまで頻度は多くなかったが遊んだりした。
裏ではナンパもやったりしたが全部失敗、そのグループの4対4の合コンに誘われるも、僕だけがゲット出来ず大敗、部活も調子が悪く自信が失う一方であった。
僕には圧倒的にヒットレシオ(モテ度)が足りないんだ…まず僕は肉体的魅力を上げるため筋トレを増やした。そして根本的な問題に目を向けた。
「今やってる事は果たして正しいのだろうか。」
そう、このモテ工学の辿り着く先は独身の目のギラついたチャラチャラしたモテおじさんになるか、結局は結婚という1人の女性を愛するかどちらかだ。
間違いないのは試行回数が多ければ多いほど自分にとって運命的な人に会える可能性は高くなるという事だ。
しかし、それは自分の本来の性格などを曲げてまでする事なのか??
今までおとなしく生きてきた自分にとってはそのモテ工学の実践は背伸びどころかもう足が常に浮いている状態だった。
このモテ工学には向き不向きがあると思う。その競争から逃げてると言われればそれまでだが、根本的にそこまでしてモテたいのかと言われたらそうじゃない。
ただ良い部分は取り入れたら良いのだ。たとえば自分自身の魅力を磨いたり、トーク力を磨いたりは出来るはずだ。
そして周りの士気も下げかねないので区切りを付けてこのグループから抜ける事にした。
第七章: 差
2回生秋、後期が始まり設計課題がまた始まっていった。徐々に僕は課題についていけなくなった。前提の知識も薄い上、センスがないというモチベの低下と部活とバイトの両立も厳しくなってきたからだ。
エスキス(進捗報告)の日の前日に毎回考える日が続き、彼女もそんな私も準備出来てないから大丈夫!間に合うよ!とエールをくれた。
結局僕はそれなりのクオリティで報告するもほぼ全否定される形で練り直しをくらった。一方彼女は指摘こそあれどコンセプトとしてはいいねと好評だった。しかも明らかに準備万端で、マラソンを一緒に走ろうねと約束したのにピュンと先を越されたような感覚だった。まあでも当たり前だが悪いのは準備不足の僕である。
僕と彼女のレベルの差が広がるばかりだった。
付き合って半年が経過したが僕も彼女も今ひとつ心を開けずにいた。趣味が合わなかったり、彼女が好きなものを好きになれないのだ。なんとなく本当は僕は好きじゃないんだろうなと勘付いたし、それは彼女にはとっくに気付かれていたのだろう。
また、彼女もまた僕の事が本当に好きだったのかも謎だ。とあるタイミングで何で僕を好きになったん?という話を聞くと、「匂いが良かった」と一言言われた。
あ、おばあちゃんの洗剤か…。とすぐに気付いた。多分普通の1.5倍くらいドバドバ洗剤を入れてるから匂いが際立つのだ。どうやらその匂いが良い方向、芳香に働いたらしい。
いや、待てよ。逆に言えば俺そのものはそこまで好きじゃないんかい。とツッコミたくなった。
でも実際、1番致命的だなと感じた部分は、彼女は「食」が好きだったことだ。
僕は食に興味が無い上にアレルギーだったため、彼女が好きな甘いモノを一緒に食べられなかった。気を遣って食の話題を持ち込まなかっただろうけど尚更僕が彼氏である意味が無くなってしまう。
特に彼女の友達とは仲良くなれなかった。正直内輪意識が強く、そこに入り込めるトーク力は僕に無かった。
後から思えばこの友達を取り込めなかったのは痛手だった。もし仲良くなっていれば相手の愚痴を聞いて改善出来ることがあったかもしれないからだ。
だがもう修復できないほどに関係になっていた。
それが如実になってしまったのはとある事件があったからだ。
自転車の事故、それも僕が加害者になってしまったのだ。(詳細は『自分の半生〜大学編②-2』)
怪我させた相手も悪く、問題は膠着しメンタルがすり減っていった。しかも部活ではケガをし、肉体も精神も完全に疲弊し、彼女に少し強く当たってしまった事もあった。よりによってこんな不幸が連続して起こってしまったのかと嘆いていた。
そこでは「結局あなたのせいじゃないの?」と冷たく返されてしまった。
なんて非情なんだと思ったが、そうさせたのはこれまでの僕の行いが良くなかったからであろう。
本当はそういった怪しいサインがいくつとあったんだろう。それらを全て見過ごしてきたんだろう。
裏付けるかのようにLINEで呼ばれ2人きりの場所で別れを切り出されたのだった。
理由はもっと恋愛的な事がしたかったと彼女は泣きながら訴えた。それが真意かは分からないがその事実は知らなかった。
現に夏から秋にかけてはデートの数も減ってたし、ただ適当な場所に行って楽しむだけのデートしかして来なかったのも事実だ。別に文句も言われて無かったし不満は無いと思ってた。
ごめんと謝るしか無かった。
別れた後も講義のグループや課題の時には隣にいる。付き合ってた時はコミュニケーションとして最適だったが別れたら気まずい事この上ない。
それが嫌で今まで通り話し掛けようとしたが裏目に出て冷ややかな目で無視された。
あーもう手遅れだ。恋愛って難しいな…僕はしばらく何も考えたくなかった。授業もサボりがちになりしばらく恋愛をやめようと思ったのだ。
それが2回生11月の話、冬はまだもう少し先なのに心なしか悲しく寒く感じた。
大学生編②に続く。