くみこ 1stアルバム『憂 & 哀』

『憂 & 哀』は、ただの素人であるくみこが2019年5月〜12月に作成された1作目のアルバムである。

 

△解説

アルバムタイトルは「あなたと私」を意味する「You&I」と今回のコンセプトである溜まっていた憂鬱や哀しみを吐き出すために作ったという経緯から漢字を当てはめたとされる。

最初の歌詞創作活動であったが、作者は「一度作り上げたら気持ちいいくらいに浮かんできた」と話している。

 

主にリアルな恋愛や日頃のストレスをぶつけた曲が多く作者の心理状態が垣間見える。作者が大学時代の頃作った唯一のアルバムである。

 

△収録曲

全作詞:くみこ

1.ヒアイ

2.Ecstasy!!

3.凍爆の一闇

4.あなただけでも信じてみたい

5.何もない道につまづく者達よ

6.赤い呼吸

7.ぬるま湯

8.ブスパイラル

9.オレとワタシ

10.人刺し指

11. 0Years〜

 

△曲解説

1.ヒアイ (2019年5月作曲)

1番最初に作られた曲。

作者が女性と別れた時のショックを引きずっており、その哀しさからの脱脚という目的で歌詞を綴ったとされる。

逆にその経験が無ければ作詞と巡り会えなかったと語っており、作者の思い入れが強い1曲となっている。

 

タイトルである「ヒアイ」をカタカナにしてあるのは、主人公にとっては「悲愛」そして、哀しみからの脱却としての「非哀」、相手にとっては「非愛」、全体のストーリーとしての「悲哀」の4つの意味が込められているからである。

 

内容としては別れた後の歌になっているが、未練がましくまだすがろうとする主人公と1人苦しみながら健気に頑張っている相手との対比を描いている。

・作者のポイント

及ばなさに嘆く君を どうにもしてやれなくて 僕もその及ばなさに 嘆いていたんだ

この歌詞が最初に思い付いてから、ちっぽけな無力感を演出するために折々に星や宇宙の要素を散りばめている。

当時発表された「B'z」のアルバム「NEW LOVE」のタイトルと宇宙をバックにしたジャケ写も意識している。

 

2.Ecstasy!! (2019年5月作曲)

作者が大学時代に所属していた陸上部にて掲げていた「走ることそのものを楽しむエクスタシー」を謳った曲である。

歌詞自体は陸上ではなく人生に置き換え普遍的なものとして落とし込んでいる。

 

・作者のポイント

最後の最後に輝くのさ そのためだけの ecstasy!!

苦しみや憎しみでギリギリになってる時こそ、生きている心地を実感できるのだと教えてくれるアツい曲です。

 

3.凍爆の一闇 (2019年6月作曲)

タイトルは「とうばくのいちや」と読む。

当初のタイトルは「凍爆の一夜」であったが、心に潜む嫌悪の深さを考えた結果、夜を闇に変更した。

これも陸上部に関する曲でエンジョイ勢であった主人公とガチ勢だった後輩との確執を描いている。

深夜に後輩から長文の苦言LINEと突然の脱退により色々な事を思い馳せ眠れなくなったもやもやを晴らすために作ったとされる。

 

ちなみにあの時どうすれば良かったのか、そしてどういう方針で進むのが正解だったのかいまだに分からないままでいる。

 

・作者のポイント

藍色に染まってゆく irony

「藍色に」と「アイロニー」という韻踏みを使いたかったというのが始まり。

奥に潜んでる midnight 覗くほどに増してく狂気

「奥に潜んでる闇」ではなくmidnightにしたのは闇の中でも1番深い部分を端的に表したかったから。

凍爆は造語である。凍は冷たい視線、爆は怒りの爆発という相反する熟語で表しており、対象者への静かなる侮蔑を視認出来るように心がけた。

 

4.あなただけでも信じてみたい (2019年8月作曲)

何も信じきれない主人公が純粋な相手を見つけ、童心に帰るかのように信じてみようとする曲。

作者は「僕はどちらかというと疑い深い人間ですね。純粋な相手のモデルは実在しますね。思い浮かべながら作りました。」と明かす。

 

・作者のポイント

見える確かなものですら 真実だとは限らない

周りが信じられないのももちろんあると思いますが、本当に信じられないのは自分自身なのでしょう。

あなたの笑顔 何気ない仕草 交わしたぬくもり どうか愛だと思わせて

裏テーマはあなたを信じてみる事で自分を信じられるように肯定していくという事なんです。

 

5.何もない道につまづく者達よ (2019年8月作曲)

これも「あなただけでも信じてみたい」と同様、実在する人を主人公として作ったとされる曲。

不器用でありながらも一生懸命頑張りもがく姿を切り取っている。

・作者のポイント

強さなど必要ないんだ 強い人に頼りゃいいんだ

自分が強くなる必要は実はあんまりない。1人でやれる事にも限界があるからだ。頼ることが諦める事ではなく、むしろトータルを考えれば最善の選択である事が多い。

円にひそんだ四角を…

円と四角の明確な違いは尖ってる部分があるかどうかである。自分にも分からない尖った才能を見つけて欲しいというのを婉曲的に伝えている。

 

6.赤い呼吸 (2019年9月作曲)

作者が咳風邪を引いた時に血が沸き上がるかのような苦しさがあった事からこのタイトルが付けられた。

 

また「赤い呼吸」が日本のロックバンドB'zのjuiceという曲のサビ「あついジュース」と語感が似ている事から全歌詞がjuiceのメロディに沿って書かれている。

尚、juiceとは歌詞の内容が異なるため作者は別の曲として認識している。

 

・作者のポイント

死んでも絶対死なない 言い訳なんてくだらない する暇あるなら動かせ

身体がしんどくても心が死んでなければやっていける。言い訳を考えた時点で心が折れかけているから考えないように限界の身体を動かせというなかなかブラック労働精神溢れた曲。

だが人生そのくらいの気概で生きてかないとやっていけない教訓歌でもある。

 

7.ぬるま湯 (2019年9月作曲)

作者が大学時代住んでいたとされる祖母の家のお風呂に浸かりながらひらめいた曲。季節は夏。

ぬるさと大学の4年という人生のぬるさをかけ合わせている。

 

・作者のポイント

刺激のないぬるま湯人生 それでも日は暮れてくれる

何もしなくても残酷にも時間が過ぎてしまうけど、それすらも焦りに感じていない主人公が見えてくる。

今一度壊れてもいいくらい嫌な思いでもしてみよう、疲れたらまた浸ればいい

人間は痛い目に遭わないと刺激として学ぶ事があまりない。

だけどエネルギーは使うからたまには休んでもいいんだとアドバイスもしてくれる。心優しい歌詞になっている。

 

8.ブスパイラル (2019年10月作曲)

見た目、才能、性格どれも取り柄のない主人公が年齢を重ねるごとに悪化していく様を描いている。この主人公にモデルはいないとされる。

・作者のポイント

綺麗なものに蓋をして 着飾る努力もやめて 他人の不幸を貪り

幸の可能性 自分自身で芽を摘んでる

性格がブスになるのは結局自分磨きを怠ってるからなんですよね。それでいて心を磨いていくと不思議な事に顔も良くなってくる…と信じております。

 

9.オレとワタシ (2019年10月作曲)

強気なオレと弱気なワタシが同じ人間に同居したいわゆる二重人格の主人公の苦悩を書いた曲。

作者は二重人格ではないが、感情が不安定なのでそれを誇大化させた延長線が今作の主人公だと話している。

・作者のポイント

虚空がドバドバ溢れ出す

虚空が溢れるという矛盾めいたフレーズだが、オレでもワタシでもないNullの状態の混乱めいた感情を表している。

きっと きっと 私は救われる

最後、一人称が「私」になっているのはオレとワタシ両方の自分を指している。

 

10.人刺し指 (2019年12月作曲)

作者が高校時代の1番荒んでいた時に考えていた事をそのまま曲にしている。

この頃卒論が上手くいかずストレスが溜まっており、作詞する事でうまく発散させる事ができたとし救われた曲であると話している。

 

・作者のポイント

中指を立てるような 荒ぶった暮らしをしながら空の人差し指で色んな人を撃ってみる

2本の指を上手い事使って主人公のギスギスした自暴自棄さを描いている。

大事なものほどなんて脆いんだ...

命すら人の善意のもと、たまたま生き残ってるだけで殺人を許されるような自然状態になればなんてあっけないものなんだと主人公は妄想している。

そう、人は無意識にこの理性というブレーキがあるからこそ生かされているのだ。

 

11. 0Years〜 (2019年12月作曲)

当時の彼女と出会ってから付き合ってしばらくに至るまでを描いてる。1年も経ってない状況なので1Yearsではなく0Yearsなのである。

yearが複数形なのは2人の育みであることから。

 

歌詞の内容は「あなただけでも信じてみたい」に似た内容だが、本歌詞は恋愛をコンセプトに作っている。

・作者のポイント

出会いの季節に出会った

まだ学生であるならば、このフレーズから新学期、春を想像するだろう。

そこから大きな花火→夏 冷えゆく季節→秋 朝はもう早くなってる→新年(1月以降の冬)

とそれぞれ季節の描写をさりげなく入れることで移ろいを表している。

同じ過ちをしてしまいそうで怖くて眠れない

これは過去の恋愛を引きずっているからこその歌詞でトラウマも相まって相手を信用できないでいる。そこからの

ずっといたいそんな気持ちになった それが恋だというならば

迷わず君を抱きしめよう この恋は間違ってない

なので胸が熱くなる展開となっている。

 

 

 

△その他

作者がファンだと明言しているロックバンド「B'z」のボーカリストであり作詞者の稲葉浩志氏の歌詞のフレーズや言い回しなど色濃く影響されている。

 

稲葉氏は歌詞解釈について、曲をリリースした瞬間に曲は聴き手のものになるので解釈は聴いた人に委ねている。だから自らは歌詞の説明はあまりしないと語っている。

 

だが、くみこ氏に関してはあえて自分が手掛けた工夫点や解釈、背景を出しているというのが稲葉氏とは違う点である。

 

理由は

歌詞そのものというより、背景からの歌詞作りのアイデア、考え方の過程を大事にしているという点や、

自分の工夫した点や自分の考え方を、皆に知って欲しいという承認欲求や、また知ることによって曲の解像度を高め、結果的に自分自身の解像度を上げるためといった点が主に挙げられる。

 

以上を踏まえた上で、曲を見てもらい解釈して欲しい。聴き手によって答えが違うのが面白いんだと語っている。

 

当時のインタビューでは「社会人になってからは恐らく時間が取れないので今後(歌詞を)作成するのは難しいだろうね。」と漏らしていたが、2023年1月現在も気ままに作詞活動を行っている。

 

次回、2ndアルバム『真空』につづく。